セダム緑化の特徴
セダムの特徴と活躍できる場所、セダムに向かない緑化について
セダムってなぁに?
セダムとは、植物学的にはベンケイソウ科マンネングサ属の植物を指します。
この仲間は世界中に数百種(500種以上?)が生息しています。多くが岩の上など貧栄養で乾燥し寒暖の差が激しい過酷な環境に耐えるため、ヨーロッパでは屋上緑化用に広く用いられます。
しかし、日本の都市部はひどく蒸し暑くなるため、耐えられるセダムはごく限られた種のみです。
セダムは、芝生やイワダレソウと比べ環境改善効果が低いという問題があります。
岩に張り付く野生のセダム |
乾燥に耐える特殊な光合成方式
セダムは、水の不足しがちな岩の上に生えるため、CAM型(Crassulacean Acid Metabolism、ベンケイソウ型有機酸代謝)と呼ばれる特殊な光合成を行います。
これは、夜に気孔を開いて二酸化炭素を取り込み、リンゴ酸という物質に変化させて貯え、昼は気孔を閉じて貯えたリンゴ酸を使って光合成を行うというものです。この方式は、通常の光合成に比べ効率は落ちますが、蒸散による水の損失を少なくできます。このため、セダムはほとんど無潅水で栽培できます。
セダムは冷却効果が乏しい
昼に気孔を閉じ蒸散を止めるため、昼間は蒸散による冷却効果が期待できず、断熱効果のみとなります。このため冷却効果は限定されます。
十分な水分のある環境では、一部のセダムは通常の光合成を行いますが、この場合節水という特徴は失われます。
芝は冷却効果が大きい
これに対し、高麗芝など多くの芝はC4型という高温に強い光合成方式を使っていますから、夏の屋上でも水が十分にあれば盛んに光合成を行い、周辺の大気を効果的に冷却します。ただし、潅水が必須となります。
(C4植物は、一般のC3植物よりも乾燥に耐えますが、水は必要です)
日本に適するセダム
北海道など冷涼な地方では、ヨーロッパ産の多彩なセダムを楽しむことができます。
一方、西南日本の都市部は夏にきわめて蒸し暑くなるため、適応するセダムは限られます。この地方の屋上に適し、入手の容易なセダムには、次のような種類があります。
メノマンネングサSedum japonicum Sieb.多年草。枝は地を這い広がり、高さ10cm程度。光沢のある緑の葉を持つ。春に黄色い花が咲く。 変種にモリムラマンネングサがある。 | |
タイトゴメSedum oryzifolium Mak.多年草。枝は地を這い広がり、高さ10cm程度。葉はごく小さい。春に黄色い花が咲く。 タイトゴメとは、土佐方言で「中国米(大唐米)」という意味。 | |
マルバマンネングサSedum makinoi Maxim.多年草。枝は地を這い広がり、高さ10cm程度。葉は大きめで幅が広い。春に黄色い花が咲く。 文字通り葉が丸いのでマルバマンネングサ。 | |
メキシコマンネングサSedum mexicanum Britt.多年草。高さ10〜20cmとやや大型。葉は黄緑が多い。春に黄色い花が咲く。 入手は最も容易ですが、外来種なので、利用には注意が必要です。 |
混植と補植の勧め
あらかじめ、パレットに混植されたセダム。 環境に適応した種が繁茂する。 |
気候は年により変動します。このため、ある年に盛んに繁殖したセダムでも、次の年にはうまく育たないことがあります。
セダム緑化では、複数種のセダムを混植するとともに、毎年枯れた株は補植することをお勧めします。
東京・名古屋・大阪などHardiness Zone9地域では、メノマンネングサ・タイトゴメ・マルバマンネングサの3種、入手できるならセトウチマンネングサを加えた4種の混植をお勧めします。
セダム以外の多肉植物
比較的乾燥に強く、環境によっては混植可能な植物には下のようなものがあります。ただし、耐乾性については分かっていないことも多く、枯れる危険性はあります。
ツメレンゲOrostachys japonicus (Maxim.) A.Bergerベンケイソウ科イワレンゲ属。セダムに分類されることもある。 多年草。ロゼット状になり、秋に白い花が咲く。 古い土塀の上などに生える。 | |
マツバギクLampranthus spectabilisハマミズナ科マツバギク属。 多年草。夏に鮮やかな花が咲く。 | |
スベリヒユPortulaca oleracea L.スベリヒユ科スベリヒユ属。 セダム同様にCAM型光合成を行う乾燥に強い植物。園芸品種は「ポーチュラカ」と呼ばれている。 マツバボタン(Portulaca grandiflora Hook.)も同属。 |
セダム緑化の管理水準
夏の状態
よく管理されたセダムでは、この写真のようになりますが、このような状態を保つには、除草・補植などきめ細かなお手入れが不可欠です。
一般的な管理では、被覆率は50〜75%程度になります。
冬の状態
同じ場所が冬にはこのようになります。
セダム緑化の遠景
きちんと手入れすれば、セダムでも遠目には緑に見えます。
(この物件は弊社の施工ではありません)
被覆率は5〜7割
一般的なお手入れをされたセダムでは、被覆率は5〜7割。近くで見るとハゲが目立ちます。
セダム緑化の失敗原因
セダム緑化が失敗する原因は、水やりの失敗・過密による蒸れ・雑草との生存競争・一斉開花による地上部の枯死・鳩による食害の5つが多くなっています。
水やりの失敗
高温多湿に弱いため、排水に注意しないと梅雨・夏に枯れることもあります。
特に、夏の炎天下に散水すると蒸れて一日で壊滅することも。排水の良い土壌に植え、潅水する場合は夜間または早朝にしましょう。
なお、セダムは乾燥に強い植物で、一度根が張れば基本的に潅水は不要です。しかし、夏場にあまりにも長期間雨が降らないと枯れる危険性もあります。工法によりますが、概ね夏場に1ヶ月くらい雨が降らなければ、潅水が必要です。この時も、昼間の潅水は避けてください。
過密による蒸れ
繁茂したセダム。そろそろ間引きが必要。 |
セダムが旺盛に成長すると、密度が高くなってきます。このような状態で蒸し暑い日が来ると、蒸れて枯れてしまったり、病気になる可能性があります。
セダムは養分が少なめの土壌で乾燥気味に育てましょう。肥料は要りません。時々植物用栄養剤を撒いてやれば十分です。増えすぎたときは適当に茎をむしり取って、まばらな場所に刺しておきます。
雑草との生存競争
セダムは多くの雑草と比べ成長が遅く、生存競争に負けてしまいます。セダムを植える場合は、土を薄くするとともに乾燥気味に育てましょう。土に養分があると雑草が旺盛に成長するので、セダムには栄養剤以外は与えないでください。
多くのセダムは日陰には弱いので、草は抜きましょう。
一斉開花による地上部の枯死
開花したセダム。開花した茎は枯れ、 根本から新しい芽が出ます。 |
セダムは花が咲くとその茎は枯れ、根元から脇芽を出して成長します。このため全ての茎が一斉に開花すると、地上部が一度に枯れてしまい、新しい芽が伸びる前に土が流されてしまう危険があります。
この問題を避けるには、一斉に成長しないように肥料を与えずに管理し、枯れた茎が目立つ場合は、株を補植してやります。
鳩による食害
セダムは比較的病虫害の少ない植物ですが、飢えたドバトの多い地域では、鳥避網が無いとたちまち食べ尽くされてしまいます。
セダムの管理
客土・施肥・補植
概ね毎年春に、寿命や害虫の食害により枯れた株を補植し、失われた土壌を補充してやります。土の厚さは1〜2cm程度もあれば十分で、厚すぎると雑草が侵入しやすくなります。土は水はけが良く、軽量かつ飛散しにくいものを選びましょう。鉢植えで栽培する場合はサボテン用の土が良いでしょう。
セダムには肥料は要りません。風により飛来する黄砂や埃で、十分に養分が補充されます。
日照
多くのセダムは十分な日照を必要とします。明るい日陰(照度1/3程度)では成長は速いものの徒長し環境ストレスに弱くなります。照度が1/10以下ではうまく育ちません。
潅水
セダムは蒸れに弱く、昼間に潅水すると枯れることがあります。
ある程度の被覆率で満足するなら、一度根が張れば日常的な潅水は要りません。そして、原則無潅水の方が栽培は容易です。極端な干天が続いた時のみ散水してやれば十分です。
セダムは蒸れに極端に弱いので、土壌は常に排水良好に保ち、また夏の昼は潅水を避けます。
除草
日本の気候では、ある程度の雑草は避けられません。雑草は夏場の乾燥で枯れますが、目障りな場合は除草します。
スベリヒユ・マツバギク・イワダレソウなど乾燥に強い植物が生えたときは、そのまま放置してかまいません。
更新
そもそも施工品質が劣っていたり管理が悪かった場合、このような状態になります。この場合は、まるごと交換が必要です。
温室セダムに注意
セダムに十分な水と肥料を与えて栽培すると、湿潤な環境に適応して昼間でも気孔を閉じなくなり、蒸散量が増え冷却効果が増すため、緑化に適するように見えます。また、見た目もみずみずしく、施工当日には美しい緑のカーベットが完成します。
しかし、このような温室セダムは急な環境変化に弱く、突発的な過湿・乾燥・高温でいっぺんに枯れる危険があります。かつてのセダム緑化の失敗例には、このような温室セダムを使用した例も多かったことが知られています。
園芸店で売られている観賞用のセダムは、屋上緑化用ではないため一般に温室セダム状態になっています。このため、植栽直後には慎重に様子を見る必要があります。温室セダムであっても、丁寧に管理すればやがて屋上に順応します。
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